シェアハウスで異世代同居 シニア×若者 共生探る
独自性確保と意思疎通カギ

 新しい暮らし方として5年ほど前から脚光を浴びて きたシェアハウス。利用は若者中心というイメージが 強かったが、最近はシニアと若者が一緒に住む試みも 始まっている。もっとも他人と暮らすのは、同じ世代 でも気遣いが必要。それが異世代となるとハードルはぐっと上がる。違う世代同士の共生のあり方を追った。
 福井市で一人暮らしの山本幸男さん(83)宅3階には、福井大2 年の近藤秀介さん(19)が 「お試し居住 」をしている。これは福井大生が発案し、県社会福祉協 議会が後押しするプロジェ クト。学生が高齢者と安価 な家賃で一緒に暮らし、雪 かきなどの生活支援をする取り組みだ。
 2人の生活動線は分かれている。2階に山本さんが住み、 ー階のキッチンやリビングを共有する。同居して2カ月がたった。取り決めにはないが、朝食は山本さんが意欲的に作るようになり、時々夜も一緒に食べる。良好な関係が築けているようだ。

利用者属性が変化
 シェア住居仲介サイト「ひつじ不動産 」を運営するひつじインキュベーション・スクエア(東京都渋谷区)の北川大祐マネージャーによれば、事業者が物件を管理・運営するシェア住 居は年3割の勢いで伸びており、累計数は3年間で約2倍になった。
 従来は20代中心だった利 用者の属性も「30代や正社員の割合が増加 」(北川マネージャー )し、多様化が進む。そうした流れを背景に、新しい動きとして注目を集めているのがシニアと若者の共生を図る試みだ。 地域交流事業を進めるNPO法人むすび(東京都練馬区)も、都市再生機構(UR)の協力を得て、区内光が丘の賃貸住宅でシニアと一緒に住む若者の借り手を募っている。「1人では健康面で心細いというシニア層と、割安な家賃で暮らしたい若者をうまくマッチングできれば 」と永野摂子理事長は言う。
 ただ課題は多い。児童養護施設の退所者を応援する NPO法人ブリッジフォースマイル(東京都千代田区)の林恵子代表にも失敗の経 験がある。一軒家を借り上げ、年配の女性 1 人と18〜19歳の退所少年6人によるシェアハウスの運営を始めたが、少年たちが面倒見の良い女性に何もかも依存するようになり、結局立ち行かなくなった。
 千葉大学大学院でシェアハウスを研究する建築・都市町料学専攻の丁志映・助教も、大学院生とシェアを始めた主婦の実例を話す。「最初は余った料理をお裾分けにと出しているうちにエスカレート。いつのまにか弁当作りが日課になり、主婦が疲れてしまった 」「異世代シェアは運営・管理が難しい」とひつじインキュベーション・スクエアの北川マネージャーは指摘する。老いも若きも共生するにはどんな工夫が必要なのか。N PO法人コレク ティブハウジング社(東京都千代田区 )が運営支援をする賃貸集合住宅「コレクティブハウス聖蹟 」(東京都多摩市)を訪ねてみた。
 4年前に完成したコンクリート打ちっ放しの建物は、キッチン・トイレ・浴室付きの専用住戸20戸と、大型のキッチン・リビングダイニング・ランドリーなどの共有スペースからなる。ワンルームから2LDK、シェア用2 Kまで25〜50uの専用住戸に0歳から70代まで計30人が住む。「多世代で暮らすにはプライバシーが確保される独立した住戸が不可欠 」(コレクティブハウジング社)
 この集合住宅を運営・管理するのは居住者組合。月1度の定例会以外に、居住者は各自いくつかのグループに所属して活動する。例えば緑・屋上グループだと、育てる植物の種の調達や作業の下準備などをする。菜園を増やしたい居住者もいれば作業が大変という居住者もおり、 意見の調整も必要。ほかに共有スペースの 掃除や庭の水やりなど、様々な当番を交代で行う。
 「ここでは何事も話し合うのが基本」。認知症の母をみとった後に入居した独身のA子さん(56)は、コミュニティーで自分の役割を持つことが暮らしを充実させるのに必要と考える。

子どもにもプラス
 2児の母である城田恵子さん(43)は「多世代同居は子どもにとってプラス」と言う。兄弟姉妹のような子ども同士のつながりができ、いろいろな大人の価値観に接することもできるからだ。 「帰りの遅い会社員の夫も、当初は当番をこなすのに四苦八苦していたが、これも生活の一部と思 えるようになったようだ 」
 1年前に越してきた独身のB子さん(30)は近隣相場より高めの家賃に納得している。 三 人暮らしに比べ、ここでは根を張るような暮らしができる 」。コミュニケーションがうまくいかないときも後に引きずらないのがコツという。居住者が声をそろえるのが「コモンミー ル」の重要性だ。居住者が交代でみんなの夕食を作る。男女とも原則月1回は担当し、それ以外はほかの人が作った料 理を楽しめる。夜遅く帰宅しても食事が用意されているのは勤め人にはありがたい。「同じ釜の飯を食べる仲間。食を通してコミュニケーションを深められる 」(城田さん)生活の時間帯や価値観の違う異世代同居は、同世代より細かい問題が起きやすい。生活の独自性を保てるハードと、一定のルールというソフトががっちりかみ合必要がある。

フランスで先行
 千葉大学大学院助教の丁志映さんは「シニアと若者のシェアハウスで成功しているのがフランス」と言う。きっかけは2003年夏の異常熱波。独居高齢者を中心にフランス圏内で1万5000人の死者を出し、社会問題になった。「そこでNPOが高齢者と若者のホームシェアに動き、市も補助金を出すようになった。ポイントはその進め方」(丁さん)にある。
 高齢者の健康度合いに応じて「連帯住居」「経済的住居」「無料住居」の3段階に分け、同居する若者の見守り度と家賃に差をつけた。「例えば無料住居なら、若者は週末振るに付き添うなど、相当な時間を見守りに費やす代わりに家賃がただになる」(丁さん)。若者は学生で留学生が多いため、1〜2年で交代する。それをNPOがしっかり管理・運営する仕組みだ。
 リヨンやベルサイユ、ナントなど他都市にも、高齢者と若者のホームシェアが広がっている。「日本でも参考にできる面がある」と、丁さんは調査研究を進めている。

2013年5月28日 日本経済新聞(夕刊)


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