出口治明さん講演会 (後半パネルディスカッション)

【ライフネット生命株式会社 代表取締役会長兼CEO 出口治明さん】講演会


(CHC主催 会員向け講演会@コレクティブハウス聖蹟)

2015年10月10日、CHC会員向け企画として、ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEOでいらっしゃる出口治明さんをお招きして、ご講演いただきました。

出口さんはかねてより、「公共住宅は全てコレクティブハウスに」という提言をなさっており、以前からCHCとの意見交換やご講演をお願いできたらと願っていたのが、今回叶いました。

当日は、前半に子育てをテーマにご講演いただき、後半は、CHC共同代表理事の宮本を司会に、同じく宮前、理事の狩野も加わり、パネル形式でお話しいただきました。
その後半部分のお話を、ライフネット生命保険株式会社および出口さまご本人にご了解をいただき、こちらで公開させていただきます。

出口さま、ライフネット生命保険株式会社さま、ありがとうございます!

出口さん講演      出口さん講演パネルディスカッション


■(後半)CHC宮前、狩野とのパネルディスカッション

<司会>
 ここからは、CHC(コレクティブハウジング社)のコーディネーターの宮前さんと狩野さんにも加わっていただいて、パネルディスカッションというか、3人のお話をお聴きしていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
 さて、まずは今回のきっかけとなった、例えば2012年6月号のダイヤモンド・オンラインの「孤住から混住へ」という記事でも書いていらっしゃって、先ほどのお話でも多様性が必要だろうという言葉が子育ての中でのキーワードとしてありましたが、コレクティブハウスとのそもそもの出会いについてお話しいただいでもよろしいでしょうか。

<出口>
 ぼくがコレクティブハウスという言葉を聞いたのは92年だと思いますが、92年~95年まで3年間ロンドンにいたときに北欧の仕事をやっていて、そこでストックホルム市の副市長などからコレクティブハウスのことを聞いたのが最初です。みなさん御存じのように僕は歴史オタクで歴史の本も書いていますが、人間の住み方をみてみたときに、さっきお話ししたように、20万年前から19万年、だいたい移動生活しています。そのときはみんながまとまって群れで暮らしているので、だいたい50人とか100人のグループで移動しているわけですから、もうコレクティブですよね。そして、1万年ぐらい前から人間は定住を始めますが、そのときも小さい共同体で、日本でいえば田舎の村みたいな感じですよね。人間の歴史の中で19世紀くらいまではずっと農業が基本でした。だから、街に住んでいたとしても、だいたいが村でした。ところが産業革命が275年くらい前に興って、大きな工場ができた。そうすると働く人が必要なので、田舎から都会に出てきて、その辺りから核家族というのが出てきたように思います。ようするに、人間の歴史でいえば、せいぜい200~300年前までは、一言でいえば、みんなコレクティブだったのです。ただ、この問題というのは、単位がどんどん、どんどん小さくなっていく。昔はたくさん子供を産んでいましたから、1人で住んでも家族が4~5人いたわけです。でも、今は一人っ子とか子供がいない生活になっている。人間は集団で生活するとそこで賢くなる動物なので、そうすると共同体みたいなものをもう一回作り直さないと、どんどん孤立化していくのではないかという問題意識があって、でも、共同体を作るためにみんながもう一回村へ帰るようなことは現実的にはできません。そのように考えると、人間が一番、仲間意識ができるのは、一つ屋根の下に住んで同じ釜の飯を食う、コモンミールです。これが人間が共同体をつくるためには一番いい方法ではないかと考えて、2012年にダイヤモンド・オンラインに「孤住から混住へ」で、1人で住むのではなく、みんなで住むような社会を作ったらいいということを書きました。
 以前、外国人の友人から言われたことがあるのです。
 日本には空き家が900万戸ある。空き家は治安上も悪いし、景観上も悪い。これほど空き家があるのにゼネコンを気にして、新しい住宅を造ったら税金をまけるとは日本政府のやり方は全く理解できない。新しい家を造ったらむしろ税金を倍くらいにして取って、古い家を買ったり建て直したりする人に税金を半分くらいまける方がはるかにいい。税金で住宅を造るのならば、もう一度共同体を再生するために全部コレクティブハウスにしたらいいではないか。公団住宅が老朽化して空き家が増えているのだったら、それを壊して、コレクティブハウスに全部、建て替えればいいではないか。友人のその言葉がヒントになって、そのように考えるように至りました。

<司会>
 あの出口さんのブログの最後に「すべて個人的な意見です」と書かれていますね。これはライフネット生命の会長として書かれていますが、最後に個人的な意見と書かれているのは会社とは離れた意見で、個人の、ということですよね?

<出口>
 これはライフネット生命の広報担当者から、明記しなさいと厳しく指導されていまして(笑)

<司会>
 先ほどお話しさせていただいた中で、イギリスにいらっしゃったときにスウェーデンの政府にお金を貸す仕事をされていて、実はそのころのスウェーデンでコレクティブハウスが広がっていたのだとしたら、もしかしたら出口さんところからお貸ししたお金でコレクティブハウスにまわり、めぐりめぐって今、この場があるんじゃないかというような話になっていました。実際に我々がコレクティブハウジング社と出会って、いままで歴史を聞いてきたものを、そのまま出口さんも思っていらっしゃるように感じます。この記事(『孤住から混住へ』)もある意味、普通のことではないかとぼくは思うのですが、いまこのお話を受けて、CHCのお二人はいかがですか?

<宮前>
 昔からみんながコレクティブな暮らしをしていたんじゃないか、というのは本当にそうなのだろうと思います。私自身も、コレクティブハウジング社の受け売りとかではなくて、本当にそうだったのだろうと、思うんです(笑)。それを、もう一度、「村」に返るのではなくて、どうやって今に取り戻せるかと考えたときに、こういう仕組みを持ったスタイルというのがスウェーデンとかデンマークで造られていて、それを日本でも必要となる仕組みではないかと思って持ってきたものなので、すごく納得のできるお話しとして、出口さんのお話を聞いています。実は私たちもコレクティブハウジングの歴史の話をする時に、もともとコレクティブハウスは社会問題の中で生まれてきたという話を、することがあるんですが、出口さんがおっしゃっるように「300年前はみんなコレクティブだった」と説明した方がよほどわかりやすいなと今、感じております。ありがとうございます(笑)。

<狩野>
 私自身も子供の時に、すでに核家族ではありましたが兄弟は多かったんです。兄弟が多いということはすごくありがたいことですけれど、それだけではなくて子供が自由に街で遊んでいることを、自分の親だけじゃなくて、いろんな大人が見守っていたという、そのことがすごく豊かなことだったと思っています。それこそつい数十年前にはできていたことなのに、今はできなくなってしまったのはなぜかと疑問に感じてきましたが、コレクティブハウスとたまたま私も出会い、ここにはそれがあるんだ、と思ったんですね。今日この場は、多くがコレクティブハウスに住んでいる人たち、という珍しい場だと思うんですけれど(笑)、私自身はまさしくこういうものが一般的になっていけば、それこそ子供も自由に、親だけの価値観の中だけでなく生きていけるだろうなと思いますし、もう少しその良さを広めていきたいとすごく思っています。
 公営住宅もまさしくどんどん減っていっていて、高齢者が住む場所がないから空いているところに入れ込もうという話になっていますが、住む人の層をもっとミックスさせていくことがとても重要だと思うので、政府の策とは別のことで、もう少し良い方策がないかとすごく思っています。

<司会>
 みんなで子供を育てるのがいいのは当たり前、自明と思いますし、また、集団で生活することが生きる力に繋がるので、教育というよりそういう環境を作って暮らしていくことが生きる力になるということを、マスコミの取材など新しく興味を持ってくれた人たちの前で話す機会はあるんです。みなさん、「すごくいい暮らし方ですね」とは言いつつも、結果としてこの暮らしを必ずしも選ぶわけではないんですね。つい何十年前までは当たり前だったものに今戻ることに、なぜすごくハードルがあるのか。  私がこの暮らしを選ぶ時にも少しハードルはありましたが、賃貸住宅だしダメだったらやめればいいかというように考えました。  その辺り、多くの人が難しいと感じる部分がこの暮らしの中にあるのでしょうか?

<出口>
 自信はないのですが、圧倒的に供給量が少ないからだと思います。ロングモデルといっているのですが、人間は割といい加減な動物で、みんながやっていたら抵抗がない。でも、圧倒的に少ないと、ほとんどの人が、いい話だけどもうちょっと大きくなってから考えようとなってしまうんですよ。それはビジネスをやっていても感じます。ネット生保も同じで、「生命保険はセールスから買う」という社会常識の壁があるため、ネット生保は商品やサービスが良さそうと思っても、1対1でセールスとお話すると、なんとなく安心だからということでそちらを選んでしまう。これは割と世界的な傾向で、指数曲線ともいうのですが、いろいろな新しいことが興るときというのは、最初の10年や20年はものすごく苦労してほとんど変化がないのです。ある程度の限界線に達したときに上がり始めるんです。だから、今コレクティブハウスがまだ圧倒的に少なくてほとんど供給量がないため、話を聞いた人が、いいけれどももうちょっとメジャーになってから真剣に考えようとか、それがたぶん人間の普通の気持ちだと思いますね。

<司会>
 (笑)。確かに、まだまだあやしい存在であるというのはやっぱりありますよね。

<出口>
 だから量ってすごく大事なんですよね。どこもかしこもあったらみんな平気になるのですが、滅多にないものをみたときには身構えてしまうんです。人って初めてのことにはものすごく抵抗を持ちますからね。

<司会>
 そういう意味では、今日は、開拓者の人たちが集まっていると思います(笑)。

<出口>
 おもしろい話があって、某眼医者の名医で、とても怖い先生がいました。その先生はヒポクラテスが大事だという信念で、医者は患者さんをすべてトータルに見なければいけない。視力検査も全部医者がやらなくてはならない。助手なんかにやらせたらダメとそういう鉄の医局体制を敷いていました。そのような中で、僕の友人が、若い先生は研究もしなければならないし、患者も診なければならならずとても忙しいので、視力検査くらい専門の資格を持っている技師にやってもらったらいいんじゃないですか、と先生のところへいくたびにバカ者と怒られていた。それでついに、辞めたのです。もう身体がしんどいと。そうしたら、みんな辞め始めたんですね。その医局は回らなくなって、ついに技師を入れて、検査は医者がしなくていいことになったのです。この話を聞いてすごくおもしろかったのは、結局身近な人が辞めたから、みんな辞めてもいいんだと思ったんですよね。人間はこういうところがすごくあります。最初はみんなそんなものなので、だれかが始めて、次に近くの人が平気なんだということになって、ある量が増えて、長くなって、世の中は変わっていくような気がしますね。

<司会>
 周りの人たちが始めたことで安心して始めるタイプの人と、そうではなくて直感ということでしょうか。おそらく、直感で選んでいる人が多いと思うんですよね。

<出口>
 それは僕の友人みたいですよね。辞めなきゃダメだと。

<司会>
 直感、というようなことと、新しく社会が変わっていくこととの関連性はあるのでしょうか?

<出口>
 みなさんのような方たちが世の中にちょっとずつ増えていって、最初は低空飛行されるかもしれませんが、ニーズは間違いなくあるので、あるところまできたら大きい流れになると思いますよ。でも、その低空飛行の期間がどれくらいかかるかわかりません。ライフネット生命のビジネスもよく似ていると思います。

<司会>
 先ほど、矢田さん(CHC理事)が今までのコレクティブハウスについて「ちょっとずつ増えているんです」とご説明したことに対して、出口さんに褒めていただきました。「ゆっくり増えていいですね」と。 もしかしたら焦って増えるものではないのでしょうか。住みたい人が徐々に増えていけばいいと。

<出口>
 みなさんのお仲間が徐々に増えて、確実に増えていったらそれは必ず大きな力になると思います。今日の資料で、参考資料を紹介している中に「社会心理学講義」という本があります。これは結構難しい本なのですが、ものすごくおもしろいことが書いてあって、世の中を変えるのは全部、少数派だと。そのメカニズムを簡単にいうと、少数派の人々がコレクティブハウスはいいよといって、意見を変えない。ほとんどの人は普通の住み方をしているのですが、そのうちにだんだん、なんでこの人々は意見を変えないのだろうと思い始める。そうすると、これだけ5年も10年も意見を変えないということは、きっと正しいに違いないということを人々は思い始めるので、実は少数派が社会の意見を長い目でみたら変えていくのです。多数派というのは実はエネルギーを持たないのです。今がいいといっているだけなので、後にひっかからないでしょう。でも、少数派の人はなぜあんなに頑固に言っているんだと気にかかり、だんだん意識が変わっていく。そのようなことを丁寧に書いてある名著です。人間の歴史をみていると、必ずいつも少数派が世界を変えていっています。バーナード・ショウというものすごい毒舌家でユーモアのある人がおもしろいことを言っているのですが、賢い人はすぐにその場の空気を読んで合わせてしまうので社会を何も変えないと。不器用な人は空気を読めないので、ひたすら自分が思ったことを言い続ける。この人々のみが世界を変えていく、と。空気を読んでみんなに合わせてしまったら今と同じなので変わらないでしょう。そのような意味では、少数派であるということはものすごく貴重なことです。

<司会>
 未来が明るく感じられますね(笑)。コレクティブハウスのことも、これだけ明解に説明していただいたので、我々も使わせていただいて、明解に説明しつつ頑固に言い続ける、そして出口さんのように呼ばれれば、どこにでも大きな名刺を携えて出かけて行く、ということを今後はしていきたいと思います。  では、会場から、ライフネット生命のことも含めてご質問をお願いします。

<出口>
 何でも結構ですので、聞いてください。

<学生>
 僕たち若い世代にこうしてほしいというお願い事があれば今後それを頑なに周りに言い続けようと思います。

<出口>
 若い人に言っていることは、僕はいつも一緒で、たくさんの人に会って、たくさん本を読んで、いろいろなところへ行って、賢くなってください。ようするに勉強をしてくださいということですね。日本の一番の問題は勉強しないことです。僕の書いた本「日本の未来を考えよう」の中にもあるのですが、日本は先進国の中では大学進学率は一番低いんですよ。しかも大学で一番、勉強していません。これは企業が悪いと思います。クラブ活動やアルバイトの経験で採用内定してから、成績表を取り寄せたりしている。だれも勉強しませんよね。さらに、大学院に行く人の数も圧倒的に少ない。勉強してなかったらアイデアは生まれません。コレクティブハウスのことも、例えば北欧でこんなのがあるなんてことを知らなければ、0から考えるのは難しいでしょう。いろいろなことを知るというのは、社会をよくする武器になります。こんなにいい制度があるから使ったらいいんじゃないかとか。だから若い人に望みたいことは、世界は広いので、たくさんの人に会い、たくさん読書して、いろいろなところへ行って、賢くなって、日本の社会をもっとよくしてください。

<女性>
 出口さんの本を読んでいて大変、共感しています。  『働き方の教科書』の中で、50代からの働き方について書かれていて、ライフネット生命も定年を廃止して実力主義で60代でも採用するとおっしゃっていますが、今の日本の多くの企業の60代以上の人の働き方、考え方と比べると、出口さんは少数派なのでしょうか?

<出口>
 圧倒的に少数派だと思いますね。でも世界でみたら多数派なんですよ。僕は常々定年を廃止しようといっています。何故かといえば、日本は世界の中でも一番の高齢化社会です。人口が減っていっているので、介護する人がいないと問題になっています。では、介護とはなんだろうと考えてみたら、ものすごく簡単で、平均寿命-健康寿命なのです。健康寿命とはなんだといえば、これも簡単な定義で、自分でご飯がたべられて自分でトイレにいける、ということです。動物である人間の尊厳として、やっぱり自分でご飯を食べられて、自分でトイレにいけるということは一番大事なことですよね。そう考えたら、この国の課題は健康寿命を延ばすことにつきます。平均寿命-健康寿命が介護ですから、極端に言うと、健康寿命が延びたら介護がいらなくなるのです。そうすると世界一の長寿国の日本がやらなければならないことは、もっと健康寿命を延ばす社会を作り、世界の模範になることでしょう。そのためにはどうすればよいかを医者に聞いたら、僕の周りの医者はみんな、健康寿命を延ばす一番の方法は働くことだといいます。そうすると、定年の廃止しかないですよね。実は定年の廃止というのは欧米の主要国では当たり前にやっていることです。年齢による差別は禁止なんですよ。特にアングロサクソンは徹底していて、履歴書に年齢の欄はありません。よく考えてみたら、会社で働く人を求めているので、意欲があり、健康で、それからスペックがあれば、年齢フリーで働いて当然です。定年を廃止するという法律をつくれば、大企業は年功序列賃金をやめます。そうすると同一労働、同一賃金になって労働改革ができます。セーフティネットはどうするかといえば、みなさん「適用拡大」という言葉を聞いたことがありますか?これは今とても大事な問題です。日本の年金は国民年金と厚生年金です。国民年金は低いからダメとかいう労働者が山ほどいますが、もともとの制度を考えてみたら、国民年金は自営業者のためのものです。つまり八百屋のおじさんとかおばさんは、65歳とか70歳になっても八百屋はちょっとぐらいできるだろう、だから国民年金は最低限でいいという理念で作られているものです。厚生年金は雇われている人で、被用者ともいいます。政府が最近何をいっているかといえば、時間ではなく成果だといっている。そうすると1週間30時間くらい働かないと厚生年金は入らないとか、おかしいでしょう。そうするとパートであってもアルバイトであっても働いている人全部、人に使われている人は全部、厚生年金にしてしまえばいいというのが適用拡大の問題なのです。厚生労働省が試算をやっていて、例えば1カ月働いて5~6万円収入のある人を全部、厚生年金に適用したら、国民年金から厚生年金に1200万人くらい移る。そうすると例えば女性の場合で赤ちゃんを産みたいから、しばらくはハードな仕事は嫌だとか、1週間3日くらいしか出社しないという場合でも、厚生年金は切れないのです。
 日本で一番大切なことは、年齢フリーで働き方を自由化して、セーフティネットとしては適用拡大で被用者は全部厚生年金に持っていくというのがたぶん一番の解なのですが、この方法はドイツでシュレーダーがやった政策なのです。それでドイツ経済は強くなった。これも反対するのが大企業です。そんなことをやったら社会保険料を半分払わなければならないからダメだ、と。でも、よく考えてみたら、このような制度にすれば、企業は1週間に3日だけ働いてください、忙しいのでこの半年だけ働いてください、と自由な雇用ができるので、企業にとってみても長い目でみたら利点があるのです。仮に会社辞めても安心でしょう。会社辞めてもすぐ国民年金になるのではなく、例えば1週間に2~3回働いて、1カ月5万円とか6万円とかの仕事もできそうですよね。それがたぶん高齢化社会をうまくやっていく一番いい方法だと思います。

<出口>
 ついでにもう一つ、世代間の不公平という話があります。これも一部の学者が、許せないと煽っていっていますが、これは結局、お互いの対立を煽る議論でしかありませんよね。シンプルに話せば、今の厚生年金や健康保険ができたのは1961年で、そのときはどのような世界だったかというと、働く人が11人いて、おじいさん1人を養っていた時代です。61年のときのおじいさんの平均寿命は、65歳とか66歳です。日本の皆保険や皆年金ができたときの全体としての考え方は、サッカーチーム1つで戦争で苦労したおじいさんを死ぬまでの間6年間、面倒見ましょうというものでした。では、現在がどうなっているかといえば、サッカーチームが騎馬戦になり、もうじき肩車になろうとしています。おじいさんは何年生きるかといえば20年以上生きる。世代間の不公平があるのは当たり前だと思いませんか?だから世代間の不公平がけしからんと本当に思うのであれば、その学者はこういうべきですよね。日本に移民をたくさん入れて、騎馬戦をサッカーチームにします、と。そのようなことを言わずに、ただ世代間の不公平は許せんといっても、なにも変わりません。同じ日本という社会に生きている以上は、世代間で喧嘩しても仕方がないので、よく議論して、どうやったらちょっとでもましになるかを考えなければいけません。

<司会>
 そうですね。  みんなで集まって住めばもう少し良い暮らし方ができるかなと思って、私も巣鴨に住んで8年経つ中で、いろいろと経験しています。 ここからは居住者の人に、コレクティブハウスの暮らしについて出口さんに披露していただこうと思います。
 私がすごく感じるのは、出口さんの書籍のタイトルにある「大局観」という言葉に近いのかもしれませんが、コレクティブハウスに暮らしていて、世の中の相場観が身につくという気がしています。仕事のことだけではなく、健康や子育てのことなど生活に関わる多様なことについての相場観です。会社の仲間だけではない地域の人たち、それも仕事もバラバラ、年齢もバラバラな人たちとちょっと気軽に世間話ができるとなったときに、マスコミの情報だけを頼りにするのではなく生きていける。家族だけで孤立して悩まなくてもよいというのは、コレクティブハウスならではと思います。暮らしの中での実感から、自分の「直感」に対してもっと自信を持つことができる。コレクティブハウスに住むことで「縁」が作られ、「直感」を磨いていけるというのがここの暮らしだと感じています。
 さて、では、居住者のどなたかから、出口さんに別のところでも披露してもらえるようなエピソードなどがあれば話していただければと思います。
 例えば、スガモフラットにお住いのゆきおさん、いかがでしょうか?

<ゆきお>
 コレクティブハウスについて今話を聴いていて、少し話が違うかもしれませんが、先ほどの騎馬戦とサッカーチームの例えなど、出口さんの例えが、すごくうまいなと思いました(笑)。
 それから、なぜ自分がコレクティブハウスを選んだのかということが、今日のお話を聞いていてすごく納得できました。最初の子供を授かったときに子供関係の本を読んだときに、核家族がすごく新しいものらしいというのは知ったんですね、すごく異質だと。そこまでは知っていたのですが、さすがに人類が生まれて20万年のうち19万年はコレクティブだったというのはちょっと衝撃です。

<出口>
 もっと、もっと。19万9700年です(笑)。300年ぐらいなので。

<ゆきお>
 自分たちは少数派だと思っていたけれど、全然そうではないですね。

<出口>
 保守本流です(笑)。

<ゆきお>
 すごく勉強になりました。この暮らしはとてもいい暮らしだったのですね。自分では、大人が大変だけど楽しそうに暮らしているのを子供もみていると普段から思っていて、少なくともそれが大事なのではないかと。

<出口>
 多様性とかダイバーシティーとか、いろいろな仕事をしている人たちがいるとなぜいいのかという話では、ピカソの有名なエピソードがあります。ピカソが年を取ってから海辺をフラフラ歩いていたら、あるアメリカ人の観光客の女性が、ピカソに気がついて、サインしてくださいとお願いして、紙がないので持っているハンカチにさらさらと書いてもらった。そのときピカソはその女性に、お嬢さん、このハンカチ10万ドルですよといったそうです。お嬢さんはビックリして、え!10秒10万ドルですかと聞いたらピカソが、お嬢さん違います、50年と10秒です。つまりいろいろな人と接するということが大事ということです。違う職業や違う考え方の人というのは、お互いにピカソのサインをみんなで交換しているものみたいなので、それが一番大事なところですよね。同じ人ばかりだったら、企業は弱くなってしまうのです。僕は日本の時代の中で江戸時代が一番嫌いです。理由は単純で、日本人の歴史の中で江戸時代が一番、平均身長、体重が小さいからです。平均身長が男で155cmあるかないか、体重が50あるかないか、女性が143とか144cmです。鹿鳴館の衣装が残っているのですが、あれをみたらビックリします。今の小学校4年生ですよ。なぜ小さくなったかといえば、答えは簡単で、幕藩体制で自由に物資の流通もできなかったし、飢饉のときに流通がなくて食料が少なかった。それからもう一つは徳川政権はキリシタンのことが頭に残っていて、檀家制で全部縛っていたので、住民が通行する範囲、結婚する範囲が狭まかった。移動ができないので、隣りの村としか結婚できない。そうすると、すぐわかりますよね。雑種矯正という言葉がありますが、遺伝子が遠い人と結婚した方がいい子供ができるというのが動物の前提なのですが、その徳川政権のときに通行の範囲が限られて、徐々に小さくなっていくんですよ。人間は何が幸せかといえば、普通のご飯が食べられて、たまには酒が飲めて、上司の悪口をめいっぱい言えて、それで産みたいときに赤ちゃんを産みたい。それが人間の幸せであるというように定義をすれば、江戸時代は最低だと思います。長い日本の歴史の中で、一番身体を小さくしたのですから。だから、おっしゃったように、いろいろな人と一緒に住んでいたら楽しいですし、お父さん、お母さんが楽しそうにしていたら、子供も楽しくなるはずです。ある小学校のPTAのお母さんの集いで、どうやったら子供が本好きになりますか、と訊かれました。ものすごく簡単です。お母さんが本を読んでおもしろくなくてもゲラゲラ笑っていればいいのです。そうしたら、子供はそれをよく見てて、本を読んだら楽しいに違いないと思います。お父さん、お母さんがテレビを見てて、子どもが本を読むかといえば読むはずない。だからテレビを消して、読まなくてもいいから本を見てゲラゲラ笑えば、子供は本好きになります。

<司会>
 コレクティブハウス聖蹟を代表して、矢田さん、いかがですか?

<矢田>
 ここには子供が8人おります。うちは一人っ子ですが、2人目3人目がどんどん生まれる楽しい住まいです。こういうところはなかなかないのではないかと思っています。

<出口>
 子供が生まれると一番、人間社会が安定するんですよね。会社で考えてみてください。10年間新入社員が入ってこなかったら、会社はどんよりしてきますよね。僕は歴史オタクですが、どんどん人口が減っていて、子供がどんどん少なくなっていって、長期的に栄えた地域や国はどこもないのです。普通にちゃんと次の世代が育っていくのをみて、人は安心して死ぬんですよね。だから、子供が元気でいるとか子供がいるのは楽しいことなのです。どんな人でも、子供が走り回ってニコニコしていたり楽しそうに遊んでいるのをみて、自然ににっこりするわけですよね。それが人間の本来、動物としての基本だと思いますので。

<司会>
 ありがとうございます。  最後にCHCのお2人はいかがですか?

<宮前>
 すごく勉強になりました。出口さんのお話を聴いて、どうして私たちは小難しくしか言えないんだろうと思いました。今後は、小難しくならないように説明することに挑戦していきたいと思います。ありがとうございました。

<狩野>
 居住者のみなさんにも聴いていただいて、自分が今ここにいることがすごく腑に落ちた人もいると思います。私も後でいろんな居住者の人たちに感想を聞いてみたいと思いました。本当に楽しいお話をありがとうございました。

<司会>
 出口さん、本日は長時間ありがとうございました!


出口さん講演パネルディスカッション